実家を賃貸に出すと決めた日――「誰に」「どんな条件で」貸すのがいいのか?

家族

第1章 家は片付いた。でも“どう貸すか”が悩ましい

片付け前編・後編を終え、ようやく実家は“人が住める状態”まで整いました。

とはいえ、我々兄弟はそれぞれ別の地域で生活基盤を築いており、築50年の実家に誰かが戻って住む予定はありません。これは同世代の方なら共感いただける方も多いと思います。

そうなると選択肢としてまず浮かぶのは、母の施設費用の足しにもなる「実家の売却」です。しかし、ここで大きな問題がひとつ。

実家の敷地には、道路に面したスペースに飲食店舗(店子さんが長年借りて営業されている店)が隣接しており、これが売却の難しさの原因になっていました。

不動産の世界では、道路に面した四角い土地が最も価値が高く売れます。店を残したまま実家部分だけを売却すると「旗状地」となり、後から建つ住宅の形に制約が生まれ、土地の価値がかなり下がってしまうのです。

しかも店子さんの店舗は、地域の憩いの場として長く愛されてきた場所。営業は今も続いており、「すぐに立ち退くのは難しい」「移転すれば固定客が離れてしまう」「保証金の調整もしなければならない」といった事情がありました。

さらに話を複雑にしていたのが、母と店子さんの間に“正式な契約書が存在しなかった”という事実です。なんと、前の店子さんからの引き継ぎも口約束のまま。もちろん口約束にも一定の法的拘束力はありますが、細かな条件が曖昧なため、後のトラブルの火種になりがちです。

不動産会社に相談した際も、「親御さん世代の個人大家さんには本当に多いケースです」と言われました。昭和の時代にはこれでも成り立っていたものの、現代では契約書がないことで売却や賃貸の手続きが一気に難しくなります。

こうした背景もあり、兄弟は店子さんと丁寧に話し合いを重ねました。その結果、「母が亡くなるまでは店をそのまま営業し、それ以降に実家と敷地全体を売却する」という方向で合意に至りました。

この条件を踏まえ、不動産会社を通して店舗部分は定期借家契約を締結。必然的に、実家部分を貸し出す際も同じく定期借家で進めることになります。

母が元気なうちは、長年地域の人を支えてくれた店子さんのお店の営業を守りたい――。そんな母や家族の気持ちもあり、一般的な賃貸ではなく、期限を区切った実家の貸し方がもっとも現実的だと判断しました。

定期借家契約と普通借家契約の違い(一覧表)

項目定期借家契約普通借家契約
契約期間必ず期間を定める(1〜5年など)期間の定めあり/なしを選べる
契約終了期間満了で必ず終了(更新なし)原則として更新される(自動更新あり)
更新更新という概念がない更新が基本。貸主からの更新拒絶は難しい
再契約契約終了後に「再契約」を新規で結ぶ形契約はそのまま継続
立退き期間満了で終了できるため立退きが容易正当事由がないと貸主から解約できない
家賃市場相場に合わせやすい長期になるほど固定化しやすい
メリット貸主の柔軟性が高い/トラブルが少ない借主の居住権が強く安心して住める
デメリット借主が集まりにくい場合がある貸主側の自由度が低い

第2章 “きれいに全面リフォーム”か“最低限に留める”か――兄弟の想いとのギャップ

貸し出し条件を考える中で、もうひとつ大きなテーマが浮かび上がりました。

それは、
「どこまで家を直すのか?」 という問題です。

私は当初、家賃収入を最大化するために、
・最低限のリフォームだけ施す
・そのうえで2年間ほど借り手を見つけて住んでもらう

という現実的なプランを考えていました。

というのも、実家には築50年ならではの“古さ”がいくつも残っていたからです。

  • 日焼けで変色した襖や畳
  • 今ではあまり見かけない砂壁
  • 内壁の剥がれ・ひび割れ

短期間とはいえ、お金をいただいて令和の借り手に住んでもらう以上、ある程度は手を入れるべきだ、と私は考えていました。

しかし兄弟から返ってきたのは、
「父がこだわり抜いた古い襖や畳は、できるだけ残してほしい」
という強い想いでした。

実家の“昔の姿”に深い愛着があり、むやみに手を加えてほしくない――。
その気持ちはとてもよく分かります。家というのは、ただの建物ではなく、家族の記憶そのものでもありますから。

ただ現実には、
「家への思い入れがある貸し手」
「きれいな家を求める借り手」
という市場のギャップが存在します。

最終的には兄弟の意向を尊重し、
大規模リフォームは行わず、修繕は最低限に。
その代わり家賃設定は抑えめにする。

という方向にまとまりました。


第3章 管理会社4社に相談して分かった“相場のリアル”

次に向き合ったのは、どの会社に管理を任せるかという問題でした。

私たちはまず、リロケーション系を中心に4社へ相談しました。具体的には、

  • リロケーション専門会社へ見積もり依頼
  • 近隣の古民家・一軒家の賃貸実績を比較
  • 家の状態・立地・築年数を踏まえた家賃査定を確認

すると、提示される家賃には会社ごとにかなり差がありました。

中には、
「少しリフォームすれば最大23万円で貸せます」
と強気な査定をしてくる会社もありました。

しかし、実際のエリア感覚や築50年という現実を考えると、
最低限の修繕で見込める家賃は15万円前後が妥当

この経験を通じて、
“机上の理論”と“現場の相場”の違いをすり合わせる重要性
をあらためて実感しました。


第4章 見えてきた「短期需要」という新しい選択肢

実際に募集を始めてみると、私たち家族が想像していた「家族で長く住みたい」というパターン以外にも、意外な需要があることが分かりました。

▼実際に問い合わせがあったのはこんな人たち

  • 自宅の建て替えで、家族全員が半年だけ仮住まいを探している人
  • 近くの工事現場で半年間仕事があり、休憩・仮眠スペースとして使いたい業者さん
  • 家族の介護やライフイベントで、一時的に別の場所に滞在する必要がある人

これは、
“立地の良い一軒家” × “定期借家”
という条件だからこそ生まれる、いわば短期ニーズの受け皿になっていたのです。

実家は、
快速停車駅から徒歩5〜6分
という抜群の立地。
築年数の古さにさえ目をつぶれば、短期居住としては十分魅力的な物件でした。


第5章 家族の想い、家の価値、借り手のニーズ――全部を調整しながら最適解を探していく

実家を貸すというのは、
家を片付けたら終わりではありません。

  • 家族の感情
  • 市場の相場
  • 家の古さと魅力
  • 借り手の要望
  • 貸店舗との兼ね合い
  • 母の気持ち

全部をひとつずつ丁寧に調整しながら、
「今のベスト」を作っていく作業だと感じました。

定期借家にして家賃は抑えめ。
でも、立地の良さから“短期ニーズ”はしっかりある。
そういう“現実的な着地点”が見えてきています。

次回予告

母が大家として貸していたアパートで、身寄りのない住人が突然の孤独死――。

経験も知識もない私たち家族の前に、いきなり“人生で初めての難題”が突きつけられました。

大家はどう動くべきなのか?
最初にやるべきことは何か?
そして、心の整理はどうするのか?

次回、これまで誰にも話してこなかった「孤独死と向き合う現実」を赤裸々にお伝えします。

定年後の準備は第2の人生へのプレゼント。さあ始めましょう!

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