かつて日本には「物を大切にするのが美徳」という、昭和のあたたかい価値観が根づいていました。私自身も、その空気の中で育った一人です。
けれど令和の今、社会は大きく変わりました。断捨離、ミニマリスト、そしてメルカリ。持ちすぎず、必要なものだけを残す暮らし方が当たり前になりました。
前編では、久しぶりに実家の押し入れを開けた瞬間、昭和の時間がそのまま閉じ込められたような品々と再会した体験を書きました。思い出があふれる反面、どう扱えばよいのか迷うものばかりでした。
そして後編では、その“思い出の山”が、現実にはほとんど処分せざるを得なかったという、誰もが避けては通れない現実と向き合った記録をお話しします。親の家を片づけるというのは、単なる作業ではなく、価値観との衝突そのものでした。
第6章 90袋のゴミ問題:自治体ルールとの衝突
家の片づけを進めていると、どうしても「早くスッキリさせたい」という気持ちが先に立ちます。
今回もそうでした。1週間で分別した40リットルのゴミ袋が、なんと90袋。
それは日ごとに積み上がり、家の中は“足の踏み場がない”とはまさにこのこと。
「このままじゃ、清掃業者が入れない」。
そこで私は、実家の脇にあるゴミ集積所へ一度にまとめて出せないか、店子さんに確認しました。
「大丈夫だと思いますよ」
そう言われた言葉に背中を押され、家内と20袋ほどを“燃えるゴミの日”の朝に出しました。
達成感すら覚えながら、私たちはそれぞれ仕事場と自宅へ向かいました。
ところが――。
2時間後、家内から緊迫した声で電話がありました。
「今朝出したゴミ、全部“収集不可”のラベルが貼られてるって…。回収してほしいと店子さんから連絡が来たの」
自治体の説明では、収集車には限られた容量があり、
「その地域の通常量を大幅に超えるゴミは受け入れられない」
とのことでした。
さらに、下町という土地柄、集積所に積まれた“見慣れない大量のゴミ”はすぐに近所の目につきます。
「ルールを守らない家族」
そんなレッテルを貼られかねない状況でした。
仕事中で動けない私の代わりに、家内が再び実家へ向かい、
車いっぱいにゴミ袋を積んで戻ってきてくれました。
その姿は、電話越しの声のとおり、泣き出しそうに見えました。
本当に申し訳ないことをした――。
私は深く反省しました。
自分の家をきれいにする前に、まず地域のルールに従うことが何より大切。
改めて痛感した出来事でした。
📘 【追記ガイド:自治体で大量の家庭ゴミを出す際の一般的なルール】
多くの自治体では、通常の収集日に “一度に大量のゴミ” を出すことは禁止されています。
大量処分が必要なときは、次のいずれかの方法をとるよう定められています。
◆ ① 事前に自治体へ電話相談する
「大量の家庭ゴミを出す予定がある」と相談し、
追加収集の可否・費用・出し方 を確認する。
◆ ② 清掃事務所や環境センターへ「自己搬入」する
自治体が運営するクリーンセンターへ、
自分で車で運び込む方式(有料の場合が多い)。
◆ ③ 許可業者(一般廃棄物収集運搬業者)に依頼する
自治体の許可を受けた業者へ
臨時収集 を依頼する(費用は業者によって異なる)。
◆ ④ 粗大ゴミ・可燃ゴミ・不燃ゴミの区分を厳守する
特に大量の場合、分別のミスがあると引き取り不可になる。
◆ ⑤ 集積所は“近隣住民の共有スペース”であることを理解する
通常量を超えるゴミを置くと、
住民トラブルの原因になりやすいので要注意。
第7章 地域ルールに沿って“段階的にゴミ出し”戦略へ
自宅へ持ち帰った20袋のゴミは、自治体のルールに従い、自宅の裏で一時保管しながら、収集日に決められた量の範囲で少しずつ出していく方法に切り替えました。時間はかかりましたが、腐敗するものではなかったため、無理なく全て処分することができました。
後で母に聞いたところ、実家のゴミ置き場には、地域のルールを守るために見回りをしてくださる“ゴミ番長”のような住民の方がいたそうです。分別にミスがないか、大量に出されていないかなどを丁寧に確認してくださっていたようです。
「ルール違反のゴミは、袋の中身を確かめて持ち主に返すこともあったらしい」——そんな話を聞いた時は、小さな地域でもルールがしっかり機能しているのだと改めて感じました。
友人の体験も印象的でした。ある朝、マンションの玄関ドアを開けると、出したはずのゴミ袋が静かに戻されていたというのです。マナーを守らない住民を注意する“ゴミGメン”がいたのではないか、と笑い話にしていましたが、それだけ地域の秩序を大切にしている証でもあります。
今回の片づけを通して、自治体のルールと、実家を早くきれいにしたいという家族の事情。その二つのギャップの中で、どう折り合いをつけるかが大きな課題なのだと痛感しました。
私の場合は実家が近かったため、この“段階的なゴミ出し”が可能でした。しかし、遠方にお住まいの方にとっては、無理をせず専門業者に一括で依頼するという選択肢も十分にありだと思います。大切なのは、家族の時間と心の余裕を守りながら、無理なく片づけを進めることだと感じました。
第8章 最終フェーズ:大型家具・大量廃棄は業者を使う
“実家の片づけ”の仕上げとして、私たちでは運び出せない大型家具・大型家電については、口コミ評価の高い「くらしのマーケット」の業者さんに依頼しました。自分たちで無理をするより、プロに任せた方が確実だと判断したからです。
当日は2トントラックとスタッフ3名体制で来てくださり、作業はまさに圧巻でした。110平米の家にぎっしり詰まっていた大物の荷物が、わずか半日で次々と運び出され、気づけば実家は“空っぽ”の状態に。素人では到底かなわないスピードと段取りの良さに驚かされました。
大型家具・家電の処分費用は18万円。もし、家全体の片づけを最初から最後まで業者に任せていたら、この10倍はかかったと思います。今回、自力+部分外注という形を取ったことで、母の資産への負担を最小限に抑えることができました。
とはいえ、最も物量が多かった台所やリビングまでは、私たちだけでは疲れ果てて手が回りませんでした。ここは完全外注し、約40万円。体力・時間・精神的負担を考えると、この判断は正解だったと思います。
実家の片づけは「全部自分たちでやる」と決めると限界が来ます。大物だけ、あるいは最終工程だけでもプロに頼むことで、家族の負担を大きく減らすことができました。
第9章 お金で解決できる部分と、自力でやる部分の線引き
今回、私たち家族が片づけの軸に置いたのは、ただ一つ。
「母が、お金の心配なく今の施設で安心して100歳まで過ごせるようにすること」。
だからこそ、自力でできる部分はできるだけ自分たちで行い、費用を最小限に抑えるという選択を取りました。
【やってよかった点】
● 自分の手で分別したからこそ、家族の“歴史”と向き合えた
父や母の若い頃の写真、子どもの頃に夢中になったおもちゃ、手紙。自分たちで仕分けしたからこそ再会できた思い出がたくさんありました。業者に丸投げしていたら、気づかないまま消えていたかもしれません。
● 「次は自分の番だ」と気づけた
今回の経験で、いつか自分の子どもたちが同じ苦労をしないよう、不要なものを今のうちから整理しておこうと強く思いました。これはまさに、筋肉痛とともに刻まれた教訓です。
● 家族で一つのことを乗り越えた達成感
家内や子どもたちには迷惑もかけましたが、一緒に片づけを進めた時間はかけがえのないものでした。“家としての節目”を共有できたように感じます。
● 親が本当に必要としていたものを、自分の手で選び取れた
「これは母にはもう必要ないだろう」「これは残してあげたい」——。自分の目で確かめながら判断できたことは、大きな安心につながりました。
【やって後悔した点】
● 家族の時間と体力を大きく消耗した
1週間の片づけは想像以上にハードで、心身ともに疲れ果てました。筋肉痛で翌週の仕事に影響したほどです。
● 完璧にこなそうとしすぎて、抱え込んでしまった
「節約しなければ」という思いが強く、プロに任せた方が早い部分まで自力でやろうとしてしまいました。結果的に、もっと早く外注すべきだった部分もあります。
実家の片づけに“正解”はありません。
家族構成、時間、体力、そして親の状況——どれも家庭によって違うからです。
今回の経験を通じて感じたのは、
「お金で解決できる部分は、無理をせずプロにお願いする」、そして
「自力でやる部分は、家族の気持ちを大切にしながら向き合う」という線引きの大切さでした。
そして何より、親の人生の最後のステージを、安心して見守れる環境を整えることこそが、子どもとしてできる最大の“片づけ”なのだと実感したのです。
第10章 今回の実家片づけから得た教訓
今回の実家の片づけを終えて強く感じたのは、片づけという行為は、単に“物を手放す作業”ではないということでした。家に積もっていたのは物ではなく、家族が歩んできた時間そのもの。押し入れの奥に眠っていた写真や手紙、使い古された道具たちが、そのことを静かに教えてくれました。
そして、実家の片づけは「家族の合意形成」なくして前に進まないという現実にも直面しました。親の承諾、兄弟間の調整、地域ルールへの理解、業者との連携——。どれも一筋縄ではいきませんが、誰か一人が背負うのではなく、家族全員が少しずつ役割を担うことで、ようやく前に進めるのだと実感しました。
片づけが完了し、空になった実家を見た時の気持ちは今でも忘れられません。
長年「何とかしないと…」と心の奥に引っかかっていた重しが、スッと抜けていくような感覚でした。“親の家の片づけ”は、ある意味で自分自身の肩の荷を下ろす儀式でもあったのかもしれません。
今回の経験を通じて、「実家問題」は決して他人事ではなく、これから同世代の多くの方が直面するテーマだと身をもって知りました。だからこそ、この体験はきっと誰かの指針になるはず——そう信じて、ここに記録として残します。
片づけの正解は家庭ごとに違います。ただ共通して言えるのは、“早く始めすぎて困ることは一つもない”ということ。そして大切な思い出まで捨てないよう、家族の気持ちに丁寧に向き合うこと。
私自身、この片づけを通して親の人生を改めて理解し、家族の絆を再確認し、自分の将来の準備にも目を向けることができました。それは何にも代えがたい収穫でした。
次は、私たち自身が子どもたちに残す「これからの家の物語」をどう整えていくか。“実家片づけ”は終わりではなく、私たち自身の未来へと続く入り口なのかもしれません。
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定年準備中の64歳サラリーマン。
実体験をもとに、定年後のお金・健康・暮らしについて発信しています。 同じ立場の方が、少し楽になるヒントを届けたい。


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