第1章:母の骨折から、わずか2週間後に起きた出来事
母が大腿骨を骨折して入院した日の、わずか一か月後のことでした。
私は網膜剥離の手術で入院しており、術後の談話室でぼんやりと過ごしていたとき、兄弟から一本の電話が入りました。
「母が貸していたアパートの住人さんが亡くなっていた。
しかも本来の保証人であるお姉さんが『私は対応しません』と言っている」
その一言で、血の気が引きました。
入院中で身動きが取れない状況で、突然“現実”が目の前に放り込まれたのです。
第2章:保証人の拒否と、すべてが私たち家族の肩に乗る現実
母が所有するアパートは、昭和の時代に建てられた小さな木造2階建て。
契約書の更新はされているものの、いつの時点からか連帯保証人の記載が抜け落ちたまま運用されていました。
亡くなった住人は生活保護受給者で、長い飲酒歴。
お姉さんも関係を絶ちたい気持ちがあったのでしょう。
不動産屋に話を聞くと、保証人としての法的拘束力はすでになく、
これから発生する特殊清掃・原状回復・リフォーム費用はすべて大家負担
と言われました。
その瞬間、
「これ全部、私たち兄弟でやるしかないのか」
という重い現実がのしかかりました。
第3章:兄弟の“思考停止”と、入院中の私に回ってきた役割
兄弟は住人のケアマネジャーさんと連携し、鍵を開け、警察の検視、遺体搬送、見聞、埋葬まで進めてくれました。
しかし現場を開けた瞬間、状況は一変しました。
部屋は強烈な臭気に包まれ、散乱した荷物は腐敗が進み始めていました。
兄弟はその光景に完全に固まり、「気持ち悪くて無理だ。あとは頼む」と私にバトンを渡してきました。
私は入院中の身でありながら、談話室でスマホを握りしめ、
不動産屋、特殊清掃、福祉窓口、と次々に電話をかけ始めました。
この日から、
“アパート孤独死問題”という重く長い旅路が始まったのです。
第4章:まずは“臭いを止める”応急処置——特殊清掃の現実
まず必要だったのは、腐敗の進行を止めることでした。
木造アパートという構造上、上階の若い住人や近隣への臭気被害が広がる恐れがあり、一刻の猶予もありませんでした。
私は付き合いのあった不動産屋に相談し、特殊清掃の会社を紹介してもらいました。
応急処置として依頼したのは、次の3点です。
- ご遺体が横たわっていた場所の清掃
- 周囲に散乱した荷物の撤去
- 室内に充満し始めた臭気の一次消臭
作業費は十数万円。
しかし、これはあくまで“応急処置”でしかありません。
本格的な清掃や建物の解体・補修を行えば、さらに五十万、六十万という費用がかかる見込みでした。
季節は初夏から盛夏へ。
気温が上がれば上がるほど腐敗の進行は早くなり、臭気も強まり、
対応が遅れれば遅れるほど修復費用は膨らんでいきます。
事故物件化を最小限に抑えつつ、
早期にアパートを再生して母のキャッシュフローを改善しなければならない。
そう思った矢先――
ここで母から、まさかの言葉を聞くことになります。
【次回予告:中編につづく】
腐敗の進行を止めるため、特殊清掃を依頼し、
なんとか“最初の壁”を越えました。
しかし、これは“孤独死アパート問題”のほんの入口にすぎませんでした。
この先に待っていたのは、
ここまでの苦労を遥かに上回る、もっと複雑で、もっと重たい現実でした。
亡くなった住人の残置物をどう扱うのか。
そのために避けて通れない遺族探し。
戸籍をたどると、想像もしなかった家族構成が次から次へと浮かび上がり、
弁護士を通じて全国に散らばる親族へ通知を送り続ける日々が始まります。
しかし、返事は一向に返ってこない。
半年ものあいだ、沈黙だけが続く中で、
「一体どうやって前に進めばいいのか」
という新たな壁が立ちはだかります。
さらに、アパートを取り壊すには、
上階の住人にも退去してもらう必要があるという事実。
相場もわからないまま進める立ち退き交渉は、
また別の神経をすり減らす戦いでした。
そして極めつけは――
当の母から告げられた、
「まさかの決断」。
孤独死が引き金となり、
私たち家族はアパートの“運命”そのものを考え直すことになるのです。
ぜひ次回の中編で、
この“問題の本丸”にどう向き合っていったのかをお読みいただければと思います。
定年後の準備は第2の人生へのプレゼント。さあ始めましょう。
🎯 関連記事3選
■ 関連記事① 実家の片づけ(後編)——ゴミ問題・搬出・プロの力・そして学んだこと
「孤独死の現場を見てしまった…」という方が、次に必ず直面するのが“片付けの現実”。
プロ清掃・残置物問題・家族間の負担など、リアルすぎる体験談が詰まっています。
「自分の実家も他人事ではない」と気づかされる記事です。

■ 関連記事② 実家を賃貸に出すと決めた日――「誰に」「どんな条件で」貸すのがいいのか?
今回の孤独死は「親の家を貸すリスク」を考える大きなきっかけになる内容でした。
この記事では、実家を賃貸に出す際の“借主選び”や“契約の落とし穴”を実例から解説。
孤独死問題の予防線として読者が知るべき内容が詰まっています。

■ 関連記事③ 実家の片づけ(前編)――資産・契約・立地…何から手をつければいいのか?
孤独死の背景には、長い年月の中で放置されてきた「実家問題」があります。
この前編では、実家の資産状況・契約内容・将来の使い方という根本的なテーマを整理。
今回の記事の“根っこにある問題”と強くリンクする内容です。


定年準備中の64歳サラリーマン。
実体験をもとに、定年後のお金・健康・暮らしについて発信しています。 同じ立場の方が、少し楽になるヒントを届けたい。


コメント